「観光革命」地球規模の構造的変化(232) ジェンダーギャップとミモザ
2021年3月13日(土) 配信
3月8日は国連が定めた「国際女性デー」である。1904年3月8日にニューヨークで女性労働者が婦人参政権を求めるデモを行なったことが起源で、75年に国連が国際女性デーを定めた。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は2月に女性蔑視発言の責任を取って会長を辞任し、後任には橋本聖子氏が就任した。森前会長の女性蔑視発言は国際的非難を浴びると共に、日本におけるジェンダーギャップ(男女格差)問題に火を付けた。
世界経済フォーラム(WEF)は毎年「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート」を公表している。2020年のレポートでは153の国々が対象で、日本は過去最低となる121位だった。要するに日本は世界でも最低レベルの男女不平等の国という評価だ。
レポートは4分野(経済・教育・政治・保健)における男女比の変数(勤労所得、管理職、高等教育就学率、平均寿命、国会議員、閣僚など)に基づいてランキングされている。日本は、勤労所得で男性賃金100に対して女性賃金74、管理職に占める女性の割合で米国40%、英国36%に対して日本15%、国会議員での女性比率は10%などである。
日本では16年に女性活躍推進法が施行されると共に女性の管理職比率の数値目標などを盛り込んだ男女共同参画基本計画が策定されている。女性管理職や女性議員を増やすことも大切であるが、一番の問題は女性従業者の56%が非正規雇用である点だ。
旅行・観光分野は本来、女性従業者の活躍によって支えられているが、現実には旅行需要の激減で、真っ先に女性従業者が解雇されがちだ。コロナ禍で旅行・観光業界は会社の存続そのものが危ぶまれる危機的状況に追い込まれているために女性従業者だけに特別な配慮を講じ難いのも事実だ。
イタリアでは3月8日は「ミモザの日」「フェスタ・デラ・ドンナ(女性の日)」とされ、男性が母親や妻、女性の友人や同僚などに日頃の感謝を込めてミモザを贈る。欧州では春の象徴カラーは黄色であり、黄色いミモザの花は厳しい冬に終わりを告げ、暖かい春の到来を知らせる「幸せの花」である。苦境に喘ぐ旅行・観光業界だが、せめても女性従業者にミモザを贈ることで職場に幸せを招き寄せてもらいたい。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。