「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(124) やった事実ではなく、「できている」レベルのおもてなしを実行しよう 掛けた手間にひと工夫
おもてなし力を高める目的は何か。その正しい理解がなければ、現場で実行される行動にも期待する成果は生まれません。
目の前のお客様に、喜んでもらうおもてなしは正しいことですが、それは手段であり、おもてなしの目的ではありません。目的は「創客」であり、リピーターとして次の利用を創造することにあります。
現場で実行する、おもてなし効果を最大限にするには、お客様と出逢う初めの印象が大切です。悪い印象を与えると、それを挽回するのに大きな力が必要となります。その後に100点満点の仕事ができても、お客様の評価は80点や50点になるかもしれません。
逆に、初めに良い印象を与えると、後は非常に楽になるのです。100点の仕事でも、150点や200点の満足度を感じてもらえるでしょう。
ただ、仮に200点の評価を得ても、次回の選択肢に残っただけです。再利用の確立を1%でも高めることが仕事です。
そのためには、次の機会をもらえるまでの仕掛けが大切です。
「お客様へのお礼状を大切にしましょう」とよく話をしています。お客様と接するときだけが、おもてなしを実行する時間ではありません。
「またお越しいただきたい」という「想い」をお客様に伝えることが、現場で実行したおもてなし行動を生かすことになるのです。
先日、以前に宿泊したホテルから、3通のお礼状をもらいました。3通ともに手間の掛かる丁寧な手書きのお礼状だったのです。
ただ、そのうちの1通は、宿泊した特別室の担当マネージャーからでしたが、過去にも、宿泊当日にもお逢いしていない方からでした。
さらに1通は、当日にも逢って話をした方ではありましたが、書かれている内容は、見本文を書き写したかのような定型的なもので、宛先だけを変えても通ずるものでした。残念ながら、この2通は手間を掛けてもらった割に、感動につながらなかったのです。
最後の1通は、以前から親しくしていた方からでした。当日は不在であいさつができなかったことへのお詫びと、いまの現状などと共に次回へのお誘いの一筆がありました。
この3通を手にして感じたことは、掛けた手間を生かすには、もうひと工夫が必要であるということです。
お礼状を出した、という事実が大切なのではなく、次回の利用を意思決定してもらえることが目的であることを理解すれば、「やっている」行動は、「できている」に変えることができるのです。
おもてなしとは、お客様を「顧客」から「個客」に変えて接するということが最も大切なことなのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。