「観光革命」地球規模の構造的変化(234) マスターズと東京五輪
2021年5月4日(火) 配信
男子ゴルフの松山英樹さんが米国で開催されたマスターズ・トーナメントで優勝した。歴史を誇るレベルの高い世界のメジャー大会で日本の男子として初めての制覇である。松山自身は10度目のマスターズ出場で最高の栄誉を勝ち得た。コロナ禍で沈滞する日本全体に大いなる元気を与えてくれた。
ゴルフの「マスターズ」は有名であるが、ワールドマスターズゲームズ(WMG)のことは、あまり日本では知られていない。WMGの理念は「スポーツ・フォー・ライフ(人生を豊かにするスポーツ)」であり、概ね30歳以上であれば誰でも大会に参加できる点でオリンピックとは大きく異なる。1985年にカナダのトロントで第1回大会が開催され、それ以後ほぼ4年ごとに世界各地で大会が開催されている。
実はWMGの10回目の大会が関西の2府8県を会場にして、今年5月に開催されるはずであった。関西大会のコンセプトは①一人ひとりの挑戦と可能性を開く②世代・地域・文化がつながる③国際色が溢れ感動を共有する④次世代にエネルギーと躍動感を送る⑤関西の魅力と文化を発揮する――の5つ。
アーチェリー、陸上競技、バドミントン、自転車、カヌー、ゲートボール、グランドゴルフ、綱引など35競技が行われ、アジアで最初の大会として5万人(国内3万人、国外2万人)の参加が見込まれていたが、コロナ禍で来年(5月13―29日)開催に変更された。本来であれば「人生を豊かにするスポーツ」の機運を高めると共に、スポーツツーリズムによる地域活性化、健康・スポーツ産業の振興、スポーツを通じた健康社会への寄与、国際交流の促進などが期待されていた。来年開催予定の関西WMGの大成功を祈念している。
一方、今年開催予定の東京五輪が大いに心配である。国際オリンピック委員会、大会組織委員会、日本政府はあくまでも東京五輪開催を主張しているが、現実には世界的にコロナ禍が沈静化しておらず、日本でも感染拡大のために3度目の緊急事態宣言が東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に出されている。
さらに日本のワクチン接種率は1%程度で先進諸国の中で最下位だ。日本政府は東京五輪開催に拘らずに、国民の健康と安寧を確保するために的確に英断を下すべきである。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。