〈旬刊旅行新聞5月11・21日号コラム〉雨を味方に 雨の日は旅人にとって「ハズレ」なのか
2021年5月20日(木) 配信
5月のよく晴れた日に、国道16号線から横浜横須賀道路に入り、三浦半島の南端・城ヶ島を目指してバイクを走らせた。でも城ヶ島に行き着く前に渋滞が発生。近くのスーパーマーケットのベンチでゼロシュガーコーラを飲んでUターンした。
新緑が美しいこの季節は、バイクにまたがって高速道路をゆったりと走るのは心地よい。丸いヘッドライトに映る青い空と、流れる白い雲を眺めながら、自然に囲まれた横浜横須賀道路の存在に感謝した。
緊急事態宣言下ということで越県が難しいなか、神奈川県内の主要な観光地といえば、横浜や箱根、江ノ島、鎌倉、小田原などが思い浮かぶが、人気観光地だけあって混雑している。息抜きの場として、広大な農地と海に面した三浦半島は、神奈川県民の財産だと感じた。
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しかし、5月も中旬に入って首都圏でも雨が多く、梅雨のような天気が続いている。
先日も、朝起きると冷たい風が寝室に入って来て、梅雨独特の湿った空気の匂いを感じた。
我が家に来て半年近くが経ち、今や私の“スペシャルフレンド”となったヘルマンリクガメの「亀吉」クンを起こし、窓辺に置くと、揺れるレースのカーテンの下で寝ぼけ眼のまま動かずに、窓外の灰色の世界をぼんやりと眺めている。「分かるよ、亀吉。こんな朝は静かに外を眺めるに限るね」と、私は異なる生物の友達に話し掛けた。
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窓の外を眺めているうちに、細かな雨が空から落ちてきた。雨の情景が点滅し、その刹那、私の中で何かのスイッチが入ってしまった。「悪いな、亀吉。行かなくては……」と言い、友人を洞窟が備え付けられた大きなガラスケースに入れて、ヘルメットを持って外に出た。
基本的に雨の日はバイクに乗らない。スリップして危険度が増すし、車体も汚れてしまう、ということもあるが、最大の理由は「楽しくないから」。
だが、この日は不思議と「小雨の中を走りたい」と思ったのだ。ウインドブレーカーを着て、相模川沿いの一本道をやや前傾姿勢で、雨と風を切り裂いた。「服が濡れても、後でシャワーを浴びると気持ちいいはず」と自分に言い聞かせ、小一時間走り続けた。すると、心身ともに浄化した気がした。「雨に濡れたバイクの寂しげでクールな姿を眺めること」はオーナーの密かな愉悦だ。赤いタンクや黒いシート、銀色のカウルに水滴が付き、やがて1つに集まり流れ落ちていく。それを少し遠くから愛でる。雨の日には、雨の日の楽しみ方があるのだ。
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今年は梅雨の始まりが早い。観光地の多くは、晴れの日を想定したイベントや、景色の見せ方も多い。雨の日は旅行者にとって「ハズレ」なのだろうか。
私は沖縄のリゾートホテルで過ごす時間が好きだ。訪れるのはいつも季節外れの時期なので、天気は変わりやすく、滞在中の数日は必ず雨が降る。けれど、雨が降っても残念とは思わない。客室の窓を全開にし、オリオンビールを飲みながら、南国の雨の景色と潮風を楽しむ。
1泊客が大半の旅館も、2泊以上の滞在客を退屈させない工夫があると嬉しい。雨音の演出や庭の見せ方、たとえビジネス街の小さなホテルでも照明や、シェードの素材の工夫などで雨の街を優雅な気分にさせることは可能だ。雨の日を味方につけた宿は、いつまでも旅人の心に残る。
(編集長・増田 剛)