〈旬刊旅行新聞6月11日号コラム〉本格的な旅行再開は9月? コロナ禍で失ったものは脳への刺激
2021年6月10日(木) 配信
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け始めて、1年半。2回目の夏を迎えようとしている。国内でも高齢者などからワクチン接種が進み、ようやく極度にぎすぎすした空気は薄らいでいるように感じている。
世界的な観光大国のスペインは6月から、日本人の観光客を無条件で受け入れる方針を表明した。海外旅行にも一筋の光明が見え始めた。また、外国人誘客プロモーション「You Deserve Spain(ご褒美旅行はスペインへ)」を展開する。「コロナ禍での不安な日々を忘れてもらい、リラックスしてほしい」との願いが込められている。観光大国の動き出しは早いと感心する。
スペインは6月7日から、ワクチン接種を受けた証明書を持つ全世界の観光客の入国を認めるなど、「ワクチンパスポート」もいち早くスタートする。EU各国も続く流れだ。
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一方、日本は7月23日から開幕予定の東京オリンピック、そしてパラリンピックが閉幕する9月5日までは、感染拡大、爆発を防ぐため、政府や東京都などは観光促進には一定のブレーキをかけ、慎重になることが予想される。
ワクチン接種も順調に進めば、本格的な旅行再開は9月以降となるのではないか。そのときには、一気に旅行需要が激増する。コロナ後を見据え、さまざまな準備が必要な時期となってきた。
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コロナ禍で想うことは、移動や文化活動の制限により、前向きな精神状態を保つことが難しいことだ。暇つぶしにスマホを眺めていても精神衛生上、悪いことの方が多い。「気晴らしに近所の安くて美味しい焼き鳥店に行きたいな」と思っても、やっていない。美味しいお店を見つけようという“開拓精神”も、今は弱くなっている。
このためコロナ禍でやることといったら、渋滞が解消される夜にクルマに乗って、国道16号から246号、環状8号線、世田谷通りの街並みを眺めながらドライブするか、バイクを磨くか、そうでなければ、部屋でカメと遊ぶか――の3択しかない。ストレス解消や、癒し効果には良いのだが、社会や誰かのために役に立っているでもなく、一歩でも前進、一段でも高みに向かっているわけもなく、これはこれで辛いものである。
いたずらに歳を重ねても、自分の価値観を揺るがすほどの“スリリングな刺激”を求める気持ちは、ないわけではない。
思い起こせば、コロナ禍前には、「年に1回以上は海外旅行をする」ことを課していた。
観光業界専門紙の記者という職業人として、何となく、自分の脳が求める安楽さや快適さばかりを貪る生活をしていると、“ダメになる”気が薄々していたからだと思う。
海外、とくにアジア各国では、日本にはない活気や、街の匂い、エネルギー、価値観に触れることができる。聞き馴れない言葉や喧騒も五感に訴えかけてきて、刺激となり、新たな興味・関心にもつながっていた。
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もちろん、旅をしなくても、刺激的な体験はいくらでもできる。人との出会いや、読書、音楽を聴くことでも可能だ。しかし、日常生活から離れ、遠く、異なる環境に身を置くことで得られる新しい閃きもある。コロナ禍で失ったものは、脳への刺激かもしれない。「旅の力」を借りて、再び活性化したいと思う。
(編集長・増田 剛)