「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(197)」 物語を紡ぐ「GENBA」プロジェクト(石川県小松市)
2021年6月27日(日) 配信
ものづくりの歴史は人類とともにある。今から2300年前、縄文人たちは大陸から来た渡来人から、稲作農耕や金属加工、機織りの技術などを学び、独自のものづくり技術を発展させていった。
こうしたものづくりは、日本各地で個性豊かに花開く。石川県小松市では、弥生時代の「碧玉」の玉つくりをはじめ、金や銅の鉱石、メノウ、オパール、水晶、碧玉の宝石群、良質の凝灰岩石材、九谷焼原石の陶石などの石の資源を見出し、高度に加工しながら豊かな地域を創造してきた。これが日本遺産「『珠玉と歩む物語』~時の流れの中で磨き上げた石の文化~」の物語である。
玉つくりが始まった八日市地方遺跡は、現在のJR小松駅周辺である。のちに小松製作所(コマツ)本社が置かれ、2013年には、跡地に「ひととものづくり」をテーマとしたサイエンスヒルズこまつが開業した。その会議室の一角で6月上旬、「こまつものづくり未来塾」の第1回全体会議が開かれ参加した。当日は市内約40の事業所の方々が駆け付けてくれた。
小松と言えば、九谷焼とその関連産業、石材などで有名だが、かつてはジャガード機による日本有数の紋織物産地であった。前田家ゆかりの茶の湯や菓子、酒など豊かな産業・文化も根付いている。
九谷焼関連では19年5月、かつての九谷焼の陶石(花坂陶石)の製土工場跡に、「九谷焼セラミック・ラボラトリーズ(CERABO KUTANI)が開業した。隈健吾氏設計の建物に、製土工場、ギャラリー・体験工房・レンタル工房などがそろい、九谷焼を核とした新たな産業創業拠点となっている。
今回の「ものづくり未来塾」は、この輪をさらに広げ、小松のあらゆるものづくりの力を結集しようというものである。具体的には参加事業所のオープンファクトリー化を進め、産地全体のブランド化を目指している。
小松には、日本遺産に象徴される地域の物語があるが、個々の事業所にも、創業から今日に至るまでの「工場物語」がある。実行委員長の小倉織物さんは、1895(明治28)年創業、1902(同35)年にはジャガード機による紋織を開始し、小松の絹織物をリードしてきた。世界的ブランドからも多くの注文を受けている。
同じく実行委員の宮創製陶所さんは、14(大正3)年創業の九谷焼置物の素地を手掛けてきた。素地をつくるための「型」は誠に特徴的で、工場2階には500点を超える型が保管されている。どの工場にも、こうした固有の物語があり、話を伺うたびにワクワクとする。
小松では11月12日から14日の3日間、全国の日本遺産認定地域が集まる「日本遺産サミット」が開催される。オープンファクトリー「GENGA」プロジェクトは、ここに照準を合わせている。小松の新たなものづくり観光のスタートである。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)
物作り企業観光です。誰もがそうかと思いますが、普段の日常にある品物がどうやって作られているかは頭では理解出来ていたとしても実際の現場を見たことがある人はほとんどいないんじゃないかと思います。それぞれの現場は一般のお客を入れる様には普段はなっていません。それ故むさ苦しく汚く場所によっては危険な所もあるかもしれません。しかしそれを見て本物に触れ理解することが知的な好奇心を呼び起こし驚きや感動とともに「物を知る」喜びに変わるのではないでしょうか。