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都市強化の「特区」 ― 旅館も滞在型へ柔軟な対応を

2014年6月1日
編集部

 滞在型の旅行に憧れながら、おそらく多くの日本人は、時間的、経済的、社会制度的な制約もあって、なかなか実現が難しいのではないかと思う。だが、世界に目を向ければ、数週間単位の滞在は決して珍しいわけではない。

 日本でも、「滞在型の観光地・温泉地づくり」については、ずっと以前から課題として上がっており、あらゆる場面で語り尽くされてきた。それにも関わらず、現状を見ると、残念ながら大きな進展は見られない。

 宿泊施設が滞在型になっていないから旅行者が長期滞在しないのか、長期滞在できる休暇制度などの基盤が整備されてなくニーズも少ないため、宿泊施設も滞在型への対応が遅れているのか。

 結局、いくら考えてみたところで、「鶏が先か、卵が先か」の議論になってしまう。

 外国人旅行者が昨年1千万人を突破し、東京オリンピックが20年に開催されることもあって今後、外国人旅行者の飛躍的な増加が見込まれる。

 このような状況のなか、都市における国際競争力アップを目的とした「国家戦略特別区域法」によって、停滞していた日本での滞在型旅行への対応に変化が表れそうである。「国家戦略特別区域法」の旅館業法の適用除外を活用して、「エイブル」が持つ賃貸管理物件の空室を旅行者向け民泊マッチングサイトで、主に長期滞在する外国人旅行者をターゲットとして貸し出すサービスを今秋にもスタートさせる動きが旅館業界でも大きな話題となっている。「特区」は東京都、千葉県、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県などの一部と都市部が中心だ。

 東京五輪に向けて、東京を中心としたホテルなどは、客室のキャパシティが足りなくなるなどの試算もある。とくに外国人旅行者は、都市部に集中することが予想されるので、マンションなどの空き室を長期滞在者に貸すサービスは、客室のキャパシティ不足の解消に加え、日本人の多様化する旅行スタイルに対して選択肢の拡大という点でも、大きなメリットがあるように思える。

 民間企業にとっては、規制緩和は新たなチャンスである。

 だが、どこか腑に落ちないのは、大きな需要がある大都市部に限り、「特区」として規制緩和し、競争力を高めようとする国の姿勢である。

 国土交通省や観光庁も、東京オリンピックは、東京だけでなく、地域にも足を伸ばし、日本の文化を知ってもらうことを積極的に後押しするようなことを表明しながら、一方で、大都市部に限り特例で旅行者の長期滞在を促す「特区」を設けることに、アクセルとブレーキを同時に踏み込んだような違和感を覚えるのである。明確に国は、大都市をさらに強くし、地方を切り捨て、ますます弱体化に向かわせる方に舵を切っている。

 旅館側は、主張すべき点は主張すべきである。観光立国の担い手として、弱者に甘んじる必要もなく、もっと発言力を高めていっていいと思う。

 しかし、その半面、古き良き文化を持つ旅館も、今こそ真剣に滞在型への対応に取り組んでいかなければ、例え地方に多くの旅行者が訪れたとしても、柔軟な対応ができる施設の方を旅行者は選ぶだろう。旅館も、より広い視野を持って、多様な旅行者を受け入れる改革を進めてほしい。

(編集長・増田 剛)

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