津田令子の「味のある街」「エビフライ」――ときわ食堂(東京都豊島区)
2021年7月3日(土) 配信
梅雨の晴れ間に、巣鴨(東京都)を訪ねた。駅から10分弱ぐらいの場所にある染井霊園の案内所からまっすぐに墓地の中を歩いてゆく。なだらかな坂を下りると慈眼寺の正門があるのだが、その左手にこの寺の墓地がある。近年、著名人のお墓を拝礼する人のことを「ハカマイラー」と呼ぶとか。
我われ一行は今回、芥川龍之介の眠るこの寺の界隈を歩くことにした。彼が生前に座していた五七桐紋が描かれた座布団が天辺にそのままデザインされている、とてもユニークな形態なのだ。ファンが手向けたのか、いつ訪ねても赤い花が供えられている。この寺院の歴史については、芥川の「本所両国」で触れているので興味のある方はぜひそちらを。
表通りに出て通りを渡れば巣鴨地蔵通り商店街に出る。
今回紹介するときわ食堂は、商店街の中ほどにある。地域の方々の活力の源でありたいと地元に根差した人気の食堂だ。 お母さんが家族を思う気持ちのように、お客様に温かみのある料理を提供していくというのがモットーだ。
店主自ら毎日河岸に行き、「お客様に満足していただける素材」を選び、ご飯は炊き立てにこだわる。お漬物は、ぬか床を300回かきまわすこだわりよう。仕入れた食材を、その日のうちに調理し出来立てを提供してくれる。メニューも価格も、庶民的だ。アジフライにエビフライ、鯖の塩焼きに魚の煮付け。お刺身の三点盛りもある。ニラレバ炒めにポテトサラダと何でもありなのである。
さて、今回は、お店自慢の長さ20㌢はある大きなエビフライを紹介しよう。お皿にたっぷりのキャベツ。その隣に例のものがど~んと2本のっている。「わぁ、なんという大きさだろう。食べきれるだろうか」と瞬間的に思った。あつあつの揚げ立てのそれを口に入れた途端、「今までに食べたことのない衣のサクサク具合が絶妙なエ・ビ・フ・ラ・イ」と思った。「美味しい。いや美味しすぎる」。
「ソースをかけるかそのままか」などと自問しながら、あっという間に2本、ペロリと平らげてしまった。庶民的かつ日本一美味しいエビフライの登場だ。
(トラベルキャスター)
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。