「観光革命」地球規模の構造的変化(236) 自由で開かれたインド太平洋
2021年7月2日(金) 配信
G7サミット(先進7カ国首脳会議)が英国で2年ぶりに開催された。米国第一主義のトランプ前大統領は欧州勢と対立したが、国際協調主義を標榜するバイデン大統領の登場でG7がどのように変化するか注目された。
今回のG7で最大の焦点になったのは中国問題であった。米英日は中国の覇権主義に厳しく対峙する姿勢を示したが、独仏伊は中国との経済関係を良好に保ちたいために両陣営の間の温度差が明瞭になった。
しかし、G7は民主主義や人権尊重を重視しているために首脳宣言では中国に厳しい意見が盛り込まれた。新疆ウイグル自治区や香港での人権尊重、東・南シナ海の現状への深刻な懸念、台湾海峡の平和の重要性を強調、両岸問題の平和的解決など踏み込んだ意向が組み込まれた。
今回、中国の覇権主義を牽制するために「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の重要性が首脳宣言で明記された。議長国の英国は豪印韓南アの4カ国を特別招待して、FOIPの重要性を演出した。さらに中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗して、発展途上国に対するインフラ整備のための投資に言及した点も注目されている。
中国はG7の首脳宣言で人権問題だけでなく、台湾問題やFOIPが強調されたことに対して強い遺憾の意を表明しており、今後の中国の出方が注目される。中国を牽制しつつ、深刻な紛争が生じないように最大限に尽力するのは日本の役割になるが、日本の外交力は万全であろうか。
G7の首脳宣言で「香港での人権尊重」が明記されて間もなく、中国共産党への批判的姿勢で知られる香港紙「蘋果日報(リンゴ日報)」の幹部が逮捕され廃刊に追い込まれた。中国の習近平指導部はG7による批判にも拘らず、香港で人権抑圧を強化している。
コロナ禍についてはワクチン接種の進展で数年の内に沈静化が可能であるが、中国共産党政権による覇権主義はより強化される可能性が大である。ポストコロナにおける国際観光復興に向けて最大の不安定要因は中国の覇権主義であり、FOIPによる抑止力が重要になる。日米同盟を基調にしつつ、FOIPとの関係を援用し、なおかつ日中関係を良好に維持する困難さを抱えながら、日本は未来を無事に切り拓いていけるだろうか。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。