〈旬刊旅行新聞7月11日号コラム〉自然災害――「旅」と「気象」は密接な関係にある
2021年7月10日(土) 配信
深夜に雨音で目が覚めた。
しばらく布団の中で騒音のような雨音と、窓から流れ込んでくる湿った風を感じながら、「これは災害につながる雨だ」と思った。そうするともう眠れなくなっていた。自宅のマンションは浸水のおそれはないが、近くの川が氾濫していないか心配になり、国土交通省のホームページやライブカメラなどを見ながら河川の水位を確認していた。
その間も激しい雨は収まる気配がなかった。翌日、静岡県熱海市で大規模な土石流災害が発生したことをニュース動画で目の当たりにし、心が痛んだ。
この原稿を書いている今も、どこかで大災害が発生しているかもしれない。地域の方々も、旅先で滞在されている方、移動中の方も、自然災害にはくれぐれも気をつけてほしいと思う。
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普段は東京に事務所があるため、都市部での生活が中心になっているが、長年携わる観光業界の取材活動や、個人的にも旅行が好きなため、全国の観光地や温泉地を訪れる機会が多い。
私のような立場だと、地元の人でさえ「まさか」と思うような自然災害に遭遇したときに、「どのように対応すべきか」が強い関心事だ。無意識のうちに、心の準備をするように習慣づいている自分にも気づく。
全国の秘湯巡りもしていたころは悪天候のなか、舗装されていない砂利道や、細い急斜面の“道なき道”も車で走った。突然の降雪で死を意識したこともあった。また、バイクで旅をするようになり、自然に対して良い意味で憶病者になった。
北海道を一周したときには、見渡す限り何も無い広大な平地で突然雷が鳴り出したら隠れる場所が無いことの恐怖、タンクのガソリンは次のガソリンスタンドまで十分なのかという不安、ヒグマに遭遇したときには生身のままで危険な状況――などを身に沁みて感じた。
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元々が不用意な私のような人間でも、危ない橋をたくさん渡ってきた経験の積み重ねで、「旅」と「気象」は密接に関係していることを知った。いつの間にか、スマートフォンで気象予報のアプリをチェックすることがクセになっている。また、旅行中には、どのような危機的な状況でも連絡が取れるように、スマホをフル充電に近い状態を心掛けている。ちなみに妻は大抵、残量は30%以下で、私と比べて旅の心構えが希薄なのである。
そして、おまじないのようだが、旅前には「旅の行程」をシミュレーションし、無事に帰宅したシーンを映像として脳内に投影する。これは結構大事なことだと思っている。
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海外旅行でもそうだが、旅行の最中にはさまざまなリスクが潜んでいる。飛行機に乗り、見知らぬ現地での街歩きや慣れない食事、地震や津波、台風などの自然災害を、一度頭の中で想像してみる。そのうえで、上手く危機をすり抜ける自分を、何パターンか反芻する。最後に、帰宅して、日本茶を飲みながら「あー、やっぱり狭くてボロいけど、この自宅が一番落ち着くなぁ」と独りごとを言う場面を思い描く。
「平穏な未来の日常が、旅行前に上手く脳に映像として浮かび上がらなければ、無事の帰宅は訪れないかもしれない」と言い聞かせる。原始的だが、一番のリスク回避の方法だと信じている。
(編集長・増田 剛)