「観光革命」地球規模の構造的変化(237) 異例ずくめの東京五輪
2021年8月7日(土) 配信
コロナ禍による非常事態宣言の下で、東京五輪がついに開幕した。全世界の約200の国・地域から1万人超の選手のほかに、国際オリンピック委員会(IOC)やメディアなどの海外関係者約4万人が参加する。安全で安心な大会運営が実現され、日本各地でコロナ禍が拡大しないように祈り続けている。
東京五輪は当初東日本大震災の復興のシンボルとして招致がなされた。2013年9月のIOC総会で当時の安倍首相は福島原発の汚染水漏れについて「アンダーコントロール」と明言し、「東京の夏は温暖で理想的な気候」と言い切った。
スポーツの力で人々に夢や希望を与え、困難に直面した人々を励まし勇気づける「復興五輪」が謳い文句だった。ところがコロナ禍が発生し、1年延期されてからは「人類がコロナに打ち勝った証としての五輪」に変化した。
東京五輪の基本テーマは「多様性と調和」であるが、大会組織委員会会長であった森喜朗氏が女性蔑視発言で辞任し、その後も開会式の演出担当者が女性タレントの容姿を侮辱し、また過去にユダヤ人の大虐殺を嘲笑うコントを行っていた演出家や障害者へのいじめ問題を告発された音楽制作担当者などの辞任が相次ぎ、スキャンダルだらけになった。
さらに東京五輪の開催経費についても、招致段階では7340億円であったが、最新データでは1兆6440億円に膨れ上がっている。この内、約1兆円は国と東京都の負担になるので、巨額の血税の投入が前提である。当初は約900億円のチケット収入や五輪をきっかけにした莫大な観光収入などが当てにされていたがすべて水泡に帰している。
今五輪関係者の間で、6月に英国コーンウォール地方で開催されたG7サミットのあとで開催地における新型コロナ感染者が急増していることに注目が集まっている。サミットの際に各国代表団、メディア、抗議デモ隊が集まると共に、英国各地から警察官が多数集められた。同様に、東京オリ・パラの期間中には首都圏は厳戒態勢になり、延べ約60万人の警察官が全国から特別派遣される。
非常事態宣言下で人流が抑制されているが、全世界から多くの関係者が集まっているので、大禍なく無事に終了し、その後にも大禍の生じないことを祈るばかりである。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。