〈旬刊旅行新聞8月11・21日合併号コラム〉男性1人旅の宿――「高級」や「ラグジュアリー」感は不要
2021年8月21日(土) 配信
「青森から日本海側を静かに南下しながらドライブしたい」と、近年ずっと思っていた。
今夏、高速道路で一気に盛岡まで北上し、久しぶりに東北らしい、信号のない道を楽しんだ。
弘前から鯵ヶ沢までの「青森県道31号弘前鯵ヶ沢線」は素晴らしかった。理想的なドライブ・ツーリングロードだった。適度に曲がりくねった道路の両側には、まだ青い林檎の実が成っており、これが秋になって赤味を帯びてくる風景を想像し、大人気なく興奮してしまった。
鯵ヶ沢から、千畳敷海岸、深浦、能代、男鹿半島の入道崎、秋田、象潟、酒田、あつみ温泉などに立ち寄りながら、新潟市まで右手に日本海を眺めつつ、夏の東北の美しさを堪能した。そして、東北を代表する岩手山、岩木山、鳥海山の雄姿をしっかりと目に刻み込んだ。
秋には、山口県まで日本海側をゆっくりとドライブしたいと考えている。
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さて、今回のドライブ旅行で新たな発見があった。田沢湖高原の旅館では、60代男性が1人旅をしている姿が多く見られたことだ。
女性を主な対象としたツアーや、限定プランなどは旅行会社のパンフレットやOTA(オンライン旅行会社)の企画でしばしば目にしていたが、中高年男性の1人旅を対象にしたプランを目にすることは少ない。
自分もこの「中高年男性の1人旅」の範疇に入るものの、「どのような特典があればいいか」と考えると、すぐには思いつかないのであった。
個人的な考えではあるが、中高年男性が1人旅をするときに、「高級旅館」や「ラグジュアリーなリゾートホテル」を選択肢に入れることは、あまり多くないような気がする。
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実際、宿泊した田沢湖高原の温泉旅館も、夕食無しの1泊朝食付きで6千円程度のものだった。近くのコンビニでビールやつまみなどを大量に買い込んで、1日の疲れをほぐしながら大露天風呂の温泉に浸かる。そのあと、布団の中で明日のドライブの行程について、酒を飲みながら考える時間が「至福の時」なのである。
中高年の男性の旅人にとって、客室がオシャレである必要はない。一定のレベルで清潔であれば、古くても構わない。新装の客室が1万円で、古い客室が6000円ならば、迷わず古くて安い方を選ぶだろう。
中高年男性の多くは広い温泉に入れて、酒が飲めて(安酒可)、1人きりの時間と空間が確保され、そのうえ安ければ、大きな不満は見当たらない。
そう考えると、宿で改修前の「ぱっとしない」客室を、中高年男性の1人旅プランとして「お得感」のある料金で提供すれば、双方に利があるような気がする。宿の売店で酒やつまみに利用できる「1000円分のクーポン」などを付けてもいい。
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その後もドライブ旅行は続き、山形県酒田市で宿泊した旅館で、もう一度新しい発見をした。女将の手作りの料理が自慢で、客室にトイレも付いていない小ぢんまりとしている宿。こちらは女性の1人客が多かった。田沢湖高原の宿と比べて、さりげなく女性への配慮もしっかりとされている印象を受けたが、食事処で「これほどまで1人旅の女性に支持されているのか」と、感心してしまった。
ともあれ、旅は予想不可能な出来事が楽しく、新たな発見があるものだ。
(編集長・増田 剛)