【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その5-上野で出逢える小京都・寛永寺巡礼(東京都台東区) 江戸一番の観光名所 美しい風景で心の洗濯を
2021年9月11日(土) 配信
心に美しく感動を与える時間をとるか、とらないかでは、生命力の向上に影響を与えるそうです。フランクルという精神科医が書いた、アウシュヴィッツの体験記「夜と霧」という作品があります。その作品によると、過酷なアウシュヴィッツでの生活の中で夕日に魅了された人の方が、困難な状況を乗り越えることができたそうです。夕日に関心を持てなかった人は、夕日に魅了された人たちよりも先に倒れてしまったとのこと。
美しい場所のエネルギーを感じることで、心が明るく華やかに変化するのではないでしょうか。
今回の精神性の高い旅は、東京都台東区にある上野の寛永寺巡礼。この辺りは縄文時代、海でした。寛永寺巡礼は、ご朱印がいただけるコースをご紹介します。
天台宗の関東総本山・寛永寺は、上野公園全体が寛永寺なのです。1625年に3代将軍家光が正式に発足。天海大僧正は江戸を築くとき、京都の平安京をモデルにしました。京都を守ってきた比叡山延暦寺を江戸に再現したかったので、京都御所の鬼門にあたる比叡山を置いたように、江戸城の鬼門にあたるところに寛永寺を置きました。東叡山寛永寺の「東叡山」というのは、東の比叡山という意味です。
さて、JR上野駅・公園口を出て、まずは東京国立博物館近くの寛永寺・根本中堂へ。根本中堂の中央に秘仏として、薬師如来三尊像が安置されています。薬師如来は、正式には薬師瑠璃光如来であり、天台宗の宗祖・最澄上人のご自作とのこと。健康成就をお祈りしましょう。
次は、国立科学博物館近くの開山堂へ。開山堂は、天海大僧正と慈恵大師良源大僧正も、お祀りされています。このため、開山堂は「両大師」とも呼ばれています。慈恵大師良源大僧正は、角大師とも呼ばれ、疫病神を追い払ったときの鬼のようなお姿の力強い護符も、こちらで入手可能。
そして、不忍池近くの清水観音堂へ。こちらは、京都の清水寺を模しています。京都の一大観光地を江戸に造り、京都の華やかさを江戸に居ながらにして体験できるというので、連日多くの江戸っ子が訪れました。そういったところからも、「上野で出逢える小さな京都」なのです。
高い堂内から、不忍池と松の木で満月を表している「月の松」は、美しい風景を満喫できます。江戸の浮世絵師・歌川広重の名所江戸百景「上野山内月の松」で話題に。
その後、不忍池辯天堂へ。比叡山麓の琵琶湖・竹生島になぞられて、寛永年間に建立。ご本尊の八臂大辯才天も、竹生島の宝厳寺から勧請したものです。
不忍池にはあちこちに、メガネ、フグ、スッポン、三味線の糸などの供養の石碑があります。私は、これらを見て、仏教の言葉である「草木国土悉皆成仏」という言葉を閃きました。この言葉は、人間だけでなく草や木、すべてのものは仏性を持ち、成仏することができるというのです。仏教の平等性があり、分け隔てなく、自然やモノへの深い優しさが込められています。天台宗も重んじた言葉であり、まさに寛永寺の中にこれらの石碑があることに感動しました。
最後は上野大仏へ。かつて寛永寺には巨大な大仏が鎮座。関東大震災で頭が落ち、太平洋戦争で青銅の胴体は軍に供出され、お顔だけが残りました。首が一度落ちたので「もうこれ以上落ちない」と、現在は合格祈願を願う受験生に大人気。
江戸時代、江戸一番の観光名所となった上野・寛永寺。現在は、桜の季節になると花見客であふれていますが、天海大僧正が本堂に続く参道の両脇に、日本一と名高い奈良・吉野の桜を持ってきたのです。上野で桜を愛でることができるのは、天海大僧正のおかげなのです。上野の寛永寺巡礼で、身も心も潤してみてはいかがでしょうか。
■旅人・執筆 石井 亜由美
東洋大学国際観光学部講師、カラーセラピスト。精神性の高い観光研究部会メンバー。グリーフセラピー(悲しみのケア)や巡礼、色彩心理学などを研究。