「観光革命」地球規模の構造的変化(238) 世界遺産登録と観光振興
2021年9月12日(日) 配信
コロナ禍の中で強行開催された東京五輪は8月8日に閉幕した。日本のアスリートの大活躍で、金メダル27、銀14、銅17を獲得し、これまでで最多のメダル獲得となった。
一方、五輪開幕の7月23日の東京のコロナ感染者は1359人だったが、その後のわずかの間にうなぎ上りに増え続けて5千人を超えると共に、全国のでも2万人を超え、各地の医療体制に深刻な打撃を与えている。
併せて、非常事態宣言やまん延防止等重点措置がダラダラと繰り返され、飲食業や小売業や旅行業など数多くの業種に深刻な打撃を与えている。国民の生命を軽んじると共に、国民の暮らしを軽んじてまで、開催に拘った菅政権に対する批判は日に日に強まっている。
そのような重苦しく暗い状況のなかで「2つの世界遺産登録の実現」という嬉しいニュースが飛び込んできた。1つは「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録である。大陸から切り離され島々が形成される過程で動植物は独自の進化を遂げ、イリオモテヤマネコやヤンバルクイナ、アマミノクロウサギなどの貴重な固有種が多く生息する生物多様性が評価された。
もう1つは「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道、青森、岩手、秋田)が世界文化遺産として登録された。縄文遺跡群は日本を代表する大規模集落群「三内丸山遺跡」をはじめ、4道県の17の構成資産から成っている。約1万5千年前の定住化から本格的な稲作の開始まで、東北アジアで採集・漁労・狩猟を基盤として1万年以上も続いた縄文文化の変遷を示している。
農耕以前における人類の生活のあり方と、世界最古級の土器や漆器、芸術性豊かな土偶などに象徴される高度で複雑な精神文化を示す物証が存在しており、採集・漁労・狩猟文化が極限まで発達したことが如実に示されている点が評価された。
世界遺産登録地は基本的に超一級の観光地とみなされているので、今回の登録で地元の人々は観光振興に力を注いで地域活性化に結びつけることを表明している。観光振興は大切であるが、「人類共通の財産」として保護し保全することも重要なので、長期的には地元は大きな責任を負うことになる。住民の誇りをベースにして、地域がより良く輝くことを祈っている。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。