MaaSは「地域の人の足を担うツール」(美しい伊豆創造センター 植松和男氏・東急交通インフラ事業部 戦略企画グループ戦略担当 古西伸崇氏)
2021年9月13日(月) 配信
地域住民や旅行者個々の移動ニーズに合わせ、複数の公共交通や移動サービスを組み合わせ、検索・予約・決済などを一括で行う「MaaS」。観光などとの連携により、地域の課題解決につながると期待されている。地域視点でのMaaSの在り方について、美しい伊豆創造センターと東急に話を聞いた。
植松・伊豆半島では2019年から2年間にわたり、「東急」、「東日本旅客鉄道(JR東日本)」および地域の公共交通機関が協働し、伊豆半島13市町の広域連携組織である当センターが地域の調整役として、観光MaaSの実証実験を3段階に分け進めてきました。
訪れるお客様のアンケートから、「交通の利便性」という伊豆半島の課題が見えていたので我われは実証実験を通じ、この課題を解消することに挑戦しました。目指したのは、交通運賃や施設の入館料などすべてをスマートフォンで決済できる状況です。
古西・伊豆半島で展開した観光MaaS「Izuko(イズコ)」の実証実験フェイズ1は、19年4~6月に東伊豆で実施しました。
同年12月~20年3月に伊豆半島全域に拡大して行ったフェイズ2では前回の結果を踏まえ、交通の企画乗車券や、観光施設のデジタル入園チケットなどを拡充するとともに、利便性を考慮し、使用する環境もアプリケーションからウェブブラウザへと変更しました。
フェイズ1―2の実証実験を通じて得た学びを生かし、同年11月~21年3月実施のフェイズ3ではスマートフォンの操作に慣れていて、情報発信力が高い若い層をメインターゲットに、展開エリアの拡大や、独自のものも含めた観光コンテンツの拡充に注力しました。
植松・既存の路線を組み合わせるというのが、MaaSに対する最初のイメージでした。それにより住民と観光客、それぞれの移動が便利になると考えていました。しかし実証を進めるなかで、ネットリテラシーの関係で60代以上の方には、ITを組み合わせた新しいシステムが定着しなかった実例もありました。
MaaSには地域の人の移動の足を担ってほしいと思うので、観光客、交通事業者、施設事業者、地域の人、三方に良いシステムを組み立てることが理想です。13市町それぞれで人口が違うので、地域によって交通手段に関し抱えている課題は違います。ですから各市町が丁寧に自分のまちに合った生活圏、公共施設、観光施設を結ぶネットワークを考え、そこにMaaSを取り込めるのが理想です。
一方で、これらを1事業者で取りまとめるのは難しいので、行政による規制緩和や補助金の交付など、官民が連携して進めることも、事業を進めるうえでは大切だと思います。
古西・地域の魅力をしっかりと受け止め、発信することと、さまざまな知見を得ることがMaaSの意義だと思います。
MaaSの取り組みにあたっては、交通利便性を高めることはもちろん、地域の魅力をしっかりと発信して来訪目的を創出する取り組みも行い、得られたデータをもとにさらに取り組みの質を高めていくというサイクルを、自治体や地域の事業者の皆様とともに回していくことが重要だと考えています。