〈旬刊旅行新聞9月21日号コラム〉ライダーが共有する美点――風雨にもへこたれない「耐性の強さ」
2021年9月21日(火) 配信
今号の1面で、蒸ノ湯温泉ふけの湯(秋田県鹿角市)は、オートバイの宿泊客に支持されているという、さまざまな取り組みを取材した。旅行新聞バイク部としても、今回の取材は部活動の大きな成果となった。
私自身、数年前に北海道をオートバイで1周したものの、その後は近場の道を走る程度に甘んじていた。取材に当たり、自宅から700㌔ほども離れたふけの湯へ、夕方までに辿り着けるか、一抹の不安はあった。
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オートバイの旅をしながら色々なことを考えた。例えば、1人旅と、複数で旅をすることの決定的な違いは何か。複数の場合、「最大公約数」の中で、楽しみを最大化する努力が、最重要であるということだ。
日常生活でストレスを感じ、「旅でスッキリと発散しよう」と旅に出たが、事あるごとに志向やリズムが異なり、ケンカになることもしばしばである。日常生活よりも旅への期待が大き過ぎたために、さらに失望が深くなるケースもある。
だから、「旅は楽しいはず」などと過剰に期待をしてはいけないのだ。
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今回の取材兼東北ツーリングは、午前3時台にスタートし、先述の通り、700㌔を走破するという過酷さもあり、「修行」と捉えていた。このため、最初から「楽しい」などという甘い考えはなかった。
「オートバイの旅が好き」という時点で、暑さ寒さ、風雨にもへこたれないという「耐性の強さ」を最低限、共有しているのが美点だ。熊にも2度遭遇し、濃霧や激しい雨との闘いもあった。
とくに山形県寒河江市の宿を出発した最終日の4日目は、晩秋のように終日気温が上がらず、朝から夕方まで容赦なく雨が降り続けた。同行した木下部員と、途中のサービスエリア(SA)で熱いコーヒーを飲んで震える体を温めた。もはや戦友のようなものだ。
しかし、旅が終わってみると、何かを成し遂げた達成感でいっぱいである。少し前に、同じようなルートをクルマで旅をしたが、旅を終えたときに、目にしてきた風景の鮮明度がまるで違う。
もちろん、クルマの方が断然、快適だ。雨に濡れる心配がないだけでも、安心感がある。それでも、あえて50歳も過ぎてオートバイで旅をすることに意味があることを、再認識した旅だった。
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オートバイで宿に着くと、ふけの湯でも、不老ふ死温泉(青森県)、寒河江市のホテルでも、スタッフが出てきてくれて、二輪専用の車庫を案内してくれた。秋田県鹿角市の「比内地鶏 ぐりとる」では食事中に大雨になったため、「屋根のあるところに置いてください」とわざわざスペースを空けてくれた。
北海道・稚内のノシャップ岬の小さな宿に泊まったときも、「バイクにいたずらをされないように、フロントの前に置いてくださいね」と優しく言ってくださった。その心遣いがうれしくてならない。
今回のツーリングでは、サービスエリアや宿で、北海道や大阪、香川などから長期の旅をしているライダーと出会い、短い会話を交わした。同じライダーとして、細かなことを語らなくとも「苦楽」を共有できる土壌を感じ、自然に笑顔が生まれた。
(編集長・増田 剛)