CtoCで観光を売買、こぼれた魅力をWebで配信(TRIP)
Web制作会社のLIG(岩上貴洋社長、東京都台東区)副社長の吉原豪氏は100%出資子会社TRIPを設立。Web上で観光商品の売買が可能なサイト「TRIP」を開発し、事業者と旅行者をつないでいる。旅行業法などの専門部分を三重交通グループの観光販売システムズ(小高直弘社長、愛知県名古屋市)がサポートする。事業発起人の吉原氏と観光販売システムズ観光マーケティング事業部行政・観光企画課課長の林光太朗氏に今後の展開などを聞いた。
【丁田 徹也】
――事業をはじめたきっかけは。
■吉原:はじめは林さんと着地型旅行商品を扱うサイトを作っていました。当時の提案会で大きな話題になっていたのが「商品化したくてもできないものがたくさんある」ということでした。
旅行会社は「旅行商品」を取り扱うので、単価が低いものや設定日が不定期など、販売条件に合わない小規模な商品は取り扱えず、小さな事業者はパンフレットを作って道の駅に置くくらいしかできませんでした。そこで、CtoC(消費者間取引)で、誰でも売買ができるプラットフォーム「TRIP」を開発しました。
さらに元を辿ると私と林さんは幼馴染で、長野県の野尻湖付近で過ごしてきました。私の家は、夏はラフティング、冬はスノーシューなどアウトドアスクールを経営しており、冬は大変なにぎわいでしたが、スキーブームが去ると客足が驚くほど遠のきました。当時は30分並んだリフトが今ではガラガラです。
■林:バブル期の非常に良い観光時代を見てきたので、2人が大人になって閑散とした野尻湖を見たときは衝撃で、「これはなんとかしたいな」と酒を飲みながら話していました。これがこの事業に対する根本的な想いにつながります。
■吉原:そういった意味では、まず長野を「TRIP」のモデルケースにしたいですね。一つの地域で特定の成功事例を作らないと事業が広まらないということもありますし、自治体と連携して作り上げていきたいです。
■林:サービスはまだ始まったばかりですが、興味を持っていただいている自治体は多くありますし、Webサービスなので全国に広げていけます。また、全国の自治体が抱えている「販路」という課題をクリアできると思います。多くの自治体は、旅行商品を造成しても販売するチャンネルを持っていません。地域には魅力的な体験が多くあるのに旅行会社の条件が合わなければ取り扱われません。ここで「TRIP」を利用していただくのです。これまでとりこぼされていた魅力を拾っていけるので需要も高いと思っています。観光販売システムズとしても旅行会社が扱う商品とは住み分けができているので販路が拡大できます。
――協業で得たメリットは。
■林:インターネットの進化はとても早く、Webに詳しくない我われ観光事業者が、目の前にある希望を形にしようとしてもできなかったので、Web制作をプロに任せられたことが大きいです。観光のコンサルティングはWeb事業で商売をすることではなく、観光商品が売れるということが重要なので私たちが持ってないルートで売れても地域に潤いが出れば良いのです。
■吉原:Web制作側から見ても、サイトをWeb側だけで作るのか、観光事業者と共同で作っていくかで、でき栄えは大きく変わります。とくに地方自治体と組む場合は雲泥の差だと思います。ただ、観光に関してはノウハウもコネもないので、観光販売システムズさんと提携することはとても大きかったです。
――今後の展開を教えてください。
■吉原:他業種との協業をはかっていきます。例えば、販売用の写真をカッコよく撮れるプロの写真家やモデルを派遣できるように映像会社と連携します。訪日インバウンドの増加も期待されます。多言語対応にして利用しやすいものにしたいので、翻訳会社とも連携できると良いですね。
■林:学生が地域とコラボした商品など斬新なメニューも多く盛り込んでいきたいです。
■吉原:メニューは5月9日現在で80くらいですが、1万を目標にしています。サービスの価値やインパクトが生まれるのはこの段階からだと考えています。また、Webサービスのスピード感からすると1年以内の達成が目安です。すべての商品を一から開発しているわけではないので決して不可能な話ではありません。
野尻湖の変化を見てきた我われの至上命題に「地域活性化・地方への送客」があります。これからはWebの展開だけでなく、「TRIP」を使った体験商品の販売戦略を地域と一緒に考えます。Webと観光のプロがいるので両者の利点を最大限に活かしたコンテンツで盛り上げていきます。地元の声も直接聞きたいので、お声かけいただければお伺いするという姿勢で事業に臨みます。